毎年3.11震災記念日を迎えるたびに、津波の猛襲で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市のことに想いを馳せます。ご縁があって私はGCCの仲間と共に、地元の老人保健医療施設・松原苑の医療・介護従事者及びその関係者を対象に2年間カウンセリングを実施させていただきました。
記念日にはあの時お会いした陸前高田の方々がどうしていらっしゃるか思いだすのです。
陸前高田は日本百景の一つ松原海岸で有名でしたが、7万本あった樹齢200年の松林が一本だけ残して全て薙ぎ倒され、跡には戦場ヶ原のような殺伐とした光景が残されました。津波の破壊力がいかにすさまじいか想像するだけで恐怖を感じます。
建造物の98%が浸水し、人的被害は1,752人(人口の7.5%に該当、被災地の死亡率第3位)* 松原苑でお会いした方々の中には、複数名お身内や知人を亡くしている方、愛する人のみならず家、家財、お墓、アトリエ、田畑、漁場、など多重喪失を経験している方が多数あり、誰もが何か重大喪失を経験しているという状況でした。
カウンセリングへ来談される方々は、口々に「私の喪失なんか話して良いのでしょうか?」「もっと大変な方がいらっしゃるでしょうに」と言われました。被災地では身近な人に自身のグリーフを語ることは躊躇され、遠慮され、カウンセリングで初めて語るという方が大半です。
ところで松原苑(写真上)は高台に建っているため,津波の難を逃れ、入居者・職員は全員無事でした。その背景には、理事長・故木川田典彌医師の先見の明があり、施設を立てるとき、地元の教え「海の側に家を立てるな」を死守し丘の上に建てたと伺いました。木川田医師にとって津波は「想定外」ではなく「想定内」だった。津波で多くの命が失われた一方で、一人の叡智が100人以上の命を救ったということは語り継がれるべきでしょう。
*陸前高田市東日本大震災検証報告書(H.26年2月)
グリーフ・カウンセリング・センター
鈴木剛子