トラウマ的グリーフとは、交通事故、火災、自然災害、自死、犯罪など、突然で想定外に起こる死に伴って経験する過激なグリーフのことを指します。愛する人の死が凄惨なイメージを伴うため、遺された人はトラウマ(過度なストレス)を負い、その影響に長いこと苦しみます。
トラウマ的グリーフは、早期にカウンセリングなどの介入が必要とされます。一人で抱えるには大変すぎるからです。GCCに来談された方々の中にはそうしたケースが少なくありません。
一方で「患難、汝を玉にする」というように、人は幾多の苦難を通り抜けることで人間的な成長を遂げると言われますが、トラウマ的なグリーフの経験者にはそうした人が時折見受けられます。専門的にはそのことをPTG(Posttraumatic Growth;心的外傷後成長)と言います。
ここに(ご本人の承諾を得て)その一人、田口健太郎さんをご紹介させていただきます。田口さんはかつて最愛のパートナー・ヘレンさんとガーナに在住し、地元の学校でボランティア教師として働いていましたが、任期を終えガーナを去る直前に交通事故に遭遇し、ヘレンさんは命を落としたのでした。 本当なら二人揃ってヘレンさんの両親を英国に訪ねる予定だったのが、なんと悲しい里帰りになったことでしょう。
この悲劇的な出来事の衝撃と傷心の最中にあって田口さんは、GCCへ来談されたのでした。ヘレンさんとの充実した日々を思い起こし、いかに二人は意気投合し、未来への夢を膨らませていたか、そうしたことを熱く語る彼のグリーフ・ストーリーに、その喪失感の大きさを感じました。
愛するものとの死別ほどつらい経験はないとはいえ、とりわけ若い人の早過ぎる死、突然で想定外の死は、トラウマ的グリーフを伴い。フラッシュバックや悪夢に悩まされ打ちのめされることも珍しくありません。
最愛のパートナーの死により、人生計画を根底から覆された田口さんが、その後立ち直りの道のりはどれだけ険しかったことでしょう。しかし時折の便りに前向きに歩み出したことを知っては安堵したこともありました。(彼は得意とする語学力を生かしてスポーツの日英通訳として活躍していました)
あれから16年、今年の初めに彼がガーナ出身の写真家・サルフォの作品展「アフリカラー」を主催することを知りました。作品を目にして田口さんは、強烈な色・シンプルで強い構図に惹かれたと同時に、サルフォの出身地が、かつてヘレンさんとともに住んでいた町の隣町だと知って興奮を覚えたそうです。「このサインに突き動かされた」という彼、サルフォ写真展「アフリカラー」の開催へと踏み切ったとのこと。
会場で異彩を放つサルフォノの目を見張るほどビビッドな写真の数々は、東京のどんよりした冬空まで明るく吹き飛ばしそうでした。それらの作品が短くも愛に溢れたヘレンさんの生涯を力強く讃えているようでした。
そしてこれをきっかけに、田口さんは、「私自身の人生の新たな出発点としたい」と言っています。
幾多の苦難を乗り越え、喪失と真摯に向き合い、より充実した人生を歩もうとする彼に、エールを送りたいと思います。
(代々木公園・アリサン・パークにてサルフォ写真展が開催されます)